読解練習に役立つ「骨のある英文」とは?

 少し前に「東京大学新聞」に下記のような<受験生へのメッセージ>を載せたが、これをXにポストしたところ、「骨のある英語」について御質問をいただいたので、補足がてら私の考えを書いてみる。
阿部公彦 2026.02.02
誰でも

いただいた質問⇩

おそらく多くの高校生は「骨のある英文」と言われてもどのような英文なのか分からないと思います。せいぜい難関大学の入試で出てくるような英文のことかと思う程度だと思いますが、そういう認識で正しいのでしょうか。

 まず、ここで言及される「難関大学の入試」はありだと思う。難関校に限らず、基本的に入試に出される問題は慎重な選別を行っており、識別性も必要とされるので、何らかの「山場」があり、読む者を試すような文章が出題されているから。

 しかし、読解の練習で、入試過去問に過度に依存するのは考え物だ。入試の文章はいろいろな意味で特殊でもある。とくに英語の問題の場合、特定の領域に知識がある人が有利にならないよう語彙の面での偏りが避けられるし、偏った考え方や、明らかに倫理的におかしいもの、ネガティブなものも避けられる。

当然ながら、実世界では特定の内容に深入りしたり、強烈な主張があったり、明らかに反社会的、反道徳的と言える文章もたくさん出回っている。否応なくそういったものに触れる機会もある。これに対し入試問題は、偏りすぎていないという点でまさに偏っていると言える。

 「骨のある英語」にチャレンジするのに大事なのは、ときには思い切り偏ったものも選んでみることだ。では具体的にどんな文章がいいのか、箇条書きにしてみる。入試問題では出しにくくても、読解練習には役立つ。

1.「主張」がはっきりある、新聞雑誌ウエブ記事の署名入りエッセイ。レポートではなく、主張が行われているのが大事。

署名入りのものは自分の立場を明確にし、書き手としての構えも示そうとレトリックもふんだんに使う。ひねりや皮肉も多めに配合されている。それを読み取るには力がいる。

2.「コンテクスト」(文脈)の読み取りが必要なもの。

これは何と言っても文学作品がおすすめだが、ストーリー性があればフィクションでなくともいい。出だしの一頁はとくに役立つ。フィクションはコンテクスト過剰なので、冒頭部では表面的な意味の向こうにいろんな情報を読み取らせようとする。こうした文章が入試に出ると、けっこう差がつく。

3.「批判」を行っているもの。

手っ取り早いのは書評誌(Times Literary Supplementなど)。とりあげた書籍について、書き手がどこを批判し、どこをサポートしているかを読み取るには、大雑把な意味把握以上の議論の流れの読解が必要になるし、未読の書籍の内容についての想像力も必要になる。SNS上でのもめ事の読解も、役には立つ。

4.「専門用語」が多いもの。特殊で閉じた領域のもの。

新聞の社説。とくに金融や外交などで細かい事例を扱っているものなど。

法律や経済、物理、数学、法律、医学から、料理、野球、ゲームなどなど、その領域の中で完結した言葉の使い方をしているものをのぞいてみる。辞書を引く練習にもなる。完全に理解できなくていい。

5.「心理」が描かれているもの。

これも小説が手っ取り早いが、ノンフィクションやエッセイなど、他の文章でもオッケー。

言葉で「こころ」をとらえるのは難しいから、比喩などが駆使される場合が多く、書き手も工夫する。

私が今、とりあえず考えているのはこれくらいだが、いろいろな意見があるだろう。その人のレベルや趣味趣向によっても「骨のある文章」は異なるので、生徒さんのレベルにあわせて身近にいる先生や親御さんが提案をするのも大事。読んだものの内容をそのまま受け入れる必要はない、という読み方を身につけるのも重要。

入試レベルでは否定/肯定や指示語の取り方、同格の読み取りなどが試される文章を読むのが大事になるが、入試合格は英語の勉強のゴールではなく、目標はそのはるか先にあるので、たまにはとんでもない文章にも触れたい。学校の外の世界には日本語英語問わず、珍妙な議論、おぞましい理屈、信じられないような偏向から、すばらしい知性の輝き、感動的な雄弁、わけのわからない想像力に満ちたものなどさまざまなものがある。

私たちが目指す最終目標は、

文章の意味をしっかり読み取ることだけでなく、

意味があって難しいものと、単に書き手が下手で、理屈がおかしいからわからないものとを識別して相応の対応をすること、そして、すべての文章を鵜呑みにはしないこと。

そこに至るために是非、いろんな文章を読みたい。

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